ヘカトンケイル(Hekatoncheire)は,ギリシャ神話に登場する巨人族で,100の腕と50の頭を持ち,大変な怪力の持ち主として知られている。女神転生シリーズや「ファイナルファンタジーIII」などでは,かなりタフなモンスターとして設定されていた。しかし,前述したようなルックスをグラフィックス化するのは難しいためか,残念なことに単なる巨人として描かれることが多い。
ヘカトンケイルの中でもとくに有名なものは,コットス(kottos),ブリアレオス(briareos),ギュエス(gyes)の三者だろう。それぞれの名前に「怒り」「大きな手足を持つ者」「活力」という意味が込められているそうで,最も大きな活躍は後述するティタノマキアのものだが,ヘラ,ポセイドン,アポロンと諍いを起こして敗北しそうになったゼウスに助力したり,コリントス地峡の所有権をめぐってヘリオスとポセイドンが揉めた際に仲裁役を果たしたりと,なかなか頼もしい活躍をしている。
ちなみにヘカトンケイルという名はギリシャ語で「百の手を持つ者」という意味で,別名ケンティマヌス(Centimanus)ともいわれるが,後者はヘカトンケイルのラテン語読みである。
古代ギリシアの詩人であるヘシオドスは,ヘカトンケイルは猛威を振るう自然現象の象徴だったとしている。なおこれは余談だが,出生や生い立ちなどはサイクロプスとよく似ているので,「こちら」も参照してもらいたい。
ヘカトンケイルの出生と,目立った活躍について紹介しよう。ギリシャ神話によれば,大地の女神ガイアが天空神ウラノスを産み,ガイアとウラノスが交わることでクロノスらティタン神族や,サイクロプス,ヘカトンケイルが生まれたとされる。ヘカトンケイルはティタン神族とは兄弟分にあたるため,本来であれば神として活躍しても良さそうであるが,50の頭と100の腕を持つという異形をしていたことから,父ウラノスに忌み嫌われ,冥界であるタルタロスに封印されてしまったのである(サイクロプスも単眼であったことから,ヘカトンケイルと同様にタルタロスに封印されている)。
やがて時代は流れ,クロノスがウラノスを追い出して神々の王となり,レアとの間に数々の子供をもうけた。ところがクロノスは自分も子供に追い出されるのではと恐れを抱き,レアとの間に生まれた子供達を次々と飲み干してしまったのである。これに不満を抱いたレアは,隠れて6人目の子供を出産しゼウスと名付けると,母であるガイアに託したのだ。
ゼウスは細心の注意を持って育てられ,やがて成長するとクロノスの体内から兄弟を助け,クロノスを追放したのである。ところが,ティタン神族のほとんどはゼウスを始めとする新しい神々に同調せず,新旧の神々の戦いであるティタノマキアが勃発するのである。
新旧の神々の力は拮抗しており,この戦いは10年以上にも及んだ。しかし,事態を好転させる契機がやってきたのだ。それはかつて封印されたサイクロプスとヘカトンケイルの存在である。ゼウスはガイアの助言によって,サイクロプスとヘカトンケイルをタルタロスから救出し,味方につけたのだが,これが戦況を大きく変えることになった。サイクロプスは数々の武器を作り,ヘカトンケイルは100の腕を振るって絶え間なく巨石を投げ続けたのである。次第にゼウス側が優勢となり,最終的には戦いに勝利した。敵対したティタン神族をタルタロスに閉じこめると,ゼウスはヘカトンケイルを番人に据えて見張らせたという。