ソニーの「VAIO F」は、数あるVAIOシリーズの中でも据え置き型ノートPCのフラッグシップに位置付けられる。2010年の春モデルでフルモデルチェンジを行い、ボディデザインを一新するとともに、新世代CPUのCore iシリーズを中心とした基本システムにリニューアルした。
【拡大画像や他の画像】 【表:ベンチマークテストの結果】
ここでは3モデル用意される店頭販売モデル(標準仕様モデル)のうち、クリエイティブワーク向けの要素が強い最上位機「VPCF119FJ/BI」を取り上げる。
同社は2008年秋に「Photo PC Project」を立ち上げ、「VAIO type R(RT)」や「VAIO A(AW)」といったVAIOのハイスペックラインにおいて、写真編集用途を積極的に提案してきた。2010年春モデルでは、これを「VAIO Creation Line Project」に発展させ、VAIO FでもAdobe RGBカバー率100%のプレミアムな液晶ディスプレイや、GPGPU技術のNVIDIA CUDAによって高速な映像編集が可能な外部GPUを搭載するなど、クリエイティブユースを強く意識している。
VPCF119FJ/BIは店頭モデルの中で唯一、ブラックのボディを採用する。「プレミアムブラック」と名付けれたオールブラックのボディは、円柱型のヒンジ部を軸にしたシリンダーフォルムやキー間隔を離したアイソレーションキーボードなど、VAIOノートおなじみの要素を盛り込みつつ、落ち着きのあるシンプルなデザインにまとめている。
天面は薄くラメが入ったブラウンに近いブラックで、光の反射によって見え方が変わるが、表面はベトつかず、指紋も付きにくい。パームレストの素材には同社のデジタル一眼レフカメラ「α」のグリップと同質のエラストマーを用いることで、皮のような凹凸のある質感を演出するなど、素材や仕上げで下位モデルと微妙に変化を付けている。
ボディのサイズは387.2(幅)×263(奥行き)×31?43.5(高さ)ミリで、重量は約3.2キロだ。据え置きでの利用を前提にした製品だが、それほど重くはないので室内などでの移動はしやすい。標準で付属するバッテリー(Sバッテリー)の駆動時間は約2時間となっているが、もう少し長くバッテリーで動作させたいユーザーのため、約3.5時間駆動をうたうLバッテリーのオプションも用意されている。
●クアッドコア+NVIDIA GPUのパワフルな処理性能
VAIO Fの特徴の1つが基本性能の高さだ。CPUにはクアッドコアのCore i7-720QM(1.6GHz)を採用している。1コアにつき2スレッドを同時に取り込むIntel Hyper-Threading Technologyに対応しているため、4コアで最大8スレッドの同時処理が可能だ。CPUの状態や負荷に応じて安全な範囲で自動的に動作クロックを上昇させるIntel Turbo Boost Technologyも利用でき、高負荷時の動作クロックは最大2.8GHzまでアップする。
つまり、動画のエンコードや静止画/動画のフィルタ処理などマルチコア/マルチスレッドに最適化されたソフトウェアはもちろん、そういった最適化がなされていないシングルタスク中心のソフトウェアも高速に処理できる性能を持つ。
GPUにはNVIDIAのGeForce GT 330M(グラフィックスメモリ1Gバイト)を採用している。モバイル向けとしてはミドルレンジのGPUだが、CPUやチップセットに内蔵されるグラフィックス機能とは一線を画す3D描画性能を備えており、比較的描画の負荷が低いタイトルであれば3Dゲームもプレイできる。もちろん、MPEG-4 AVC/H.264やVC-1のハードウェアデコードなどのHD動画再生支援機能にも対応している。
また、GeForce GT 330MはGPGPU技術のNVIDIA CUDAをサポートしており、CUDAに対応したアプリケーションでは動画のエンコードなどが高速に行える。VPCF119FJ/BIでもプリインストールの写真?動画管理ソフト「PMB VAIO Edition」のビデオ編集機能がCUDAに対応しており、SD動画からHD動画へのアップコンバートや、ノイズ除去、手ブレ補正、H.264(ハンディカムで撮影したAVCHDも含む)のエンコードといった処理が高速に行なえる。
CUDAのオン/オフはユーザーが任意に選択できるようにはなっていないが、ソニーによると、SD動画からHD動画へのアップコンバートが約56%高速化されるという。実際に1分間のSD動画(MPEG-2/9.2Mbps VBR)をHD動画へ変換したところ、4分弱で変換できた。
●BD-REドライブ、ダブル地デジチューナーを内蔵
チップセットはIntel HM55 Expressを採用する。メモリも高速なPC3-10600 DIMM(DDR3-1333)を用いており、標準で4Gバイトを搭載する。プリインストールOSは64ビット版のWindows 7 Home Premiumを採用しており、最大8Gバイトまでメモリの増設が可能だ。データストレージは2.5インチのSerial ATA HDD(5400rpm)を採用しており、容量は500Gバイトを確保する。
本体の右側面には光学ドライブとしてBD-REドライブを内蔵している。付属のBD/DVD再生ソフトは「WinDVD BD」だ。また、PMB VAIO Editionには従来のBD/DVDオーサリングソフト「Click to Disc/Click to Disc Editior」に相当する機能が統合されており、画面の指示に従っていくだけで簡単にメニュー付きのBD/DVDディスクを作成できる。同じ撮影日の素材から自動的にマルチアングルのBDを作成したり、撮影日を認識して自動でカレンダー型メニューを作成するといった高度な機能まであるのは驚きだ。
クリエイティブユースのモデルながら、高度なテレビ視聴?録画機能も盛り込まれている。地上デジタル放送対応のダブルテレビチューナーを内蔵しており、定評あるVAIOオリジナルの視聴/録画ソフト「Giga Pocket Digital」で2番組の同時録画が可能だ。あらかじめ設定したキーワードに関連する番組を自動録画する「おまかせ?まる録」や、時間帯が不規則な番組でも番組名から追跡して自動録画する「シリーズ録画」などの便利な機能も搭載しており、録画番組をBDメディアやメモリースティックなどにも簡単に書き出すことができる。
通信機能は1000BASE-Tの有線LANに加えて、IEEE802.11a/b/g/n準拠の無線LAN(300Mbps対応)、Bluetooth 2.1+EDRも標準で装備する。端子類も充実しており、USB 2.0はeSATAとの兼用端子を含めて3ポート、IEEE1394a(4ピン)、光デジタル音声出力(ヘッドフォンと共用)、HDMI出力、アナログRGB出力など一通りの端子を備える。
カードスロットについても、ExpressCard/34をはじめ、前面にメモリースティック デュオ(PRO-HG対応)用とSDメモリーカード(SDHC対応)用の両方を装備しており、デジタルカメラやポータブルオーディオプレイヤーなどとのデータ交換も手軽に行える。
●Adobe RGBカバー率100%のフルHD液晶ディスプレイを搭載
液晶ディスプレイのサイズは16.4型ワイドで、画面解像度は1920×1080ドットのフルHDに対応する。店頭販売向けの3モデルの中ではVPCF119FJ/BIのみハイグレードな「VAIOディスプレイプレミアム」仕様となっており、低反射コートを施しているほか、Adobe RGBカバー率100%ならびにNTSC比100%(u’v’色度図による)の広色域をカバーする。
輝度はそれほど高くないものの、低反射コート付きの画面は映り込みが少なく、しっとりとした発色で、見た目の表示品質は良好だ。液晶ディスプレイのヒンジが開く角度は約130度までだが、ノートPC用のTNパネルとしては視野角も広いため、実用上は問題ないだろう。
この液晶ディスプレイは当然ながらクリエイティブユースを意識して搭載されたものだ。初期状態で内蔵液晶用のICCプロファイルが適用されており、カラーマネジメント対応アプリケーションを使用する際、Adobe RGBの画像をほぼ正しい発色で再現できるとしている。測色器を使ったソフトウェアキャリブレーションでの利用も想定済みで、エックスライトの「ColorMunki Photo」が推奨キャリブレーターとされている。
また付属ソフトを見ても、ソニーオリジナルのタイトルに加えて、画像管理/RAW現像ソフトの「Adobe Photoshop Lightroom 2」、フォトレタッチソフトの「Adobe Photoshop Elements 8」、エプソン製プリンタ用Photoshopプラグインの「Epson Print Plug-In for Photoshop」、ビデオ編集ソフトの「Adobe Premiere Elements 8」といったメジャーなクリエイティブツールを備えている。
ちなみにPhotoshop Lightroom 2には、同社のデジタル一眼レフカメラ「α」で撮影したRAWデータを現像作業する場合、カメラでの現像画質に近づける「αプリセット」機能も追加されているので、αユーザーにとってはさらに価値が高まるだろう。
●手触りのよいサラッとしたパームレストが絶品なキーボード
キーボードはテンキー付きで、VAIOノートではおなじみとなったアイソレーションキーボードを採用している。ボディが大柄なだけにサイズには余裕があり、キーピッチは約19ミリ、キーストロークも約2ミリと打ちやすい深さを確保している。特に小さいキーは見当たらず、カーソルキーを一段下げるなどキーレイアウトも自然で使いやすい。レギュラーキーの右端とテンキーの左端の間は約8ミリと十分な間隔が空けられている。
キーボードユニットの固定はしっかりしていてたわみなどはなく、非常に安定感がある。キートップには微妙なくぼみがつけられているため指を置きやすく、スイッチの感触も安定感があって良好だ。86ミリと十分な奥行きがあるパームレストは前述の通り、エラストマー素材を用いており、ベトつかないサラッとした触感が実に心地よい。
各種ワンタッチボタンはキーボードの右上にまとめて配置されている。左から、ディスプレイのオフ、AV操作(再生/一時停止、停止、前、次)、ASSIST、S1、VAIOといった構成だ。ASSISTボタンはサポートソフトの「VAIO Care」、VAIOボタンはメディアプレーヤーソフトの「Media Gallely」を起動するためのもの。S1には任意のソフトウェアを割り当てられる。
キーボードの手前には2ボタン式のタッチパッドを装備している。アルプス電気製の多機能ドライバが導入されており、パッドの右辺/下辺を使った縦横スクロールのほか、パッドを弾くような動作でページ送りなどを行うフリックナビゲーション、2本指の開閉で拡大/縮小を行なうピンチズームといったマルチタッチジェスチャー機能が標準で利用できる。82(横)×49(縦)ミリと十分な大きさがあるパッド部分には非常に滑りのよい素材が使われており、ボタンの感触もよく、操作は実に快適だ。
●クアッドコア+NVIDIA GPUによる高いパフォーマンスを実証
Windowsエクスペリエンスインデックスのスコアは右の画面で示した通りだ。標準的な回転数5400rpmの500GバイトHDDを備えていることから、HDDのスコアは「5.5」にとどまっているが、メモリは「7.4」、CPUは「7.0」と高いスコアを獲得しており、グラフィックス関係のスコアも「6.5」と健闘している。ノートPCとしては、非常に高いレベルの性能を持っていることが分かるだろう。
PC USER定例のベンチマークテストの結果にもその性能は現れている。PCMark05やPCMark Vantageを項目別で見ても弱点といえる項目がなく、さまざまな用途にまんべんなく対応できるパフォーマンスを備えている。
3DMark06のスコアはクアッドコアによるCPUスコアが有利に働いている部分もあるが、3Dゲームでも特別負荷の高いタイトルでなければ、設定次第でプレイできる水準にはある。FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3のスコアは文句なしで、この程度のゲームであれば、快適にプレイできるのは間違いないだろう。
一方、動作音はあまり静粛とはいえない。アイドル時や低負荷時でもはっきりとファンの音が認識できるが、CPUやGPUに負荷がかかる処理ではさらにグッとモーター音や風切り音が上がる。
もっとも、発熱の処理は優秀な部類だ。室温23度の環境で一連のベンチマークテストを実行した直後に最も熱かったのは底面左の36度で、表面は32?34度と、不快な熱を持つような部分はなかった。
なお、VAIO Fのパフォーマンスについては、こちらの記事でCore i7/i5/i3搭載モデルの詳しい比較を行っているので、併せて参照してほしい。
●クリエイティブユースに最適な据え置き型VAIOノート
2010年4月6日現在、VPCF119FJ/BIの価格は大手量販店で24万円前後で推移しており、20万円を切る価格で販売している安売り店もあるようだ。
クアッドコアCPUとNVIDIA GPUを搭載するパフォーマンスに加え、Adobe RGBカバー率100%のフルHD液晶ディスプレイやダブル地デジチューナーを備えていること、さらにOffice Personal 2007やVAIOオリジナルの多彩な編集ソフトに加え、アドビシステムズのクリエイティブツール一式もプリインストールされていることを考えると、相当買い得といえるのではないだろうか。
さらにソニースタイル直販のVAIOオーナーメードモデルでは、用途に応じて仕様を絞り込んだり、逆に店頭モデルを上回るハイスペックな構成で購入することもできる。例えば、クアッドコアCPUのCore i7-820QM(1.73GHz/最大3.06GHz/3次キャッシュ8Mバイト)、最大8Gバイトのメモリ、最大512GバイトのSSDや最大640GバイトのHDD(5400rpm)、64ビット版のWindows 7 Ultimate/Professionalなどが選択可能だ。
また、環境光センサーに連動したバックライト付きの英字キーボード、直販限定ボディカラーのグレー、オリジナルメッセージの刻印サービス、外部機器とのワイヤレス接続を想定した近距離無線転送技術「TransferJet」、アドビシステムズのプロ向け総合クリエイティブスイート「Adobe Creative Suite Production Premium 4」といったメニューも取りそろえている。
これから本格的に写真やビデオの編集に取り組んでみたいユーザーにとって、VAIO Fはピッタリの1台だろう。【鈴木雅暢(撮影:矢野渉)】
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