動植物や微生物などの遺伝情報(遺伝資源)を元に開発された医薬品や食品などの利益を、原産国にどう配分するかの国際ルールを作る交渉が大詰めを迎えている。10月に名古屋市で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の事前会合がカナダ?モントリオールで18日から開かれるが、豊かな遺伝資源の対価を得ようとする途上国と、資源を利用したい先進国との対立は根深い。
(杉浦美香)
「これでまとまるのか、暗澹(あんたん)たる気持ちだ」
今月初め、COP10に向けて開かれた市民団体との意見交換で、田島一成環境副大臣はこう吐露した。
COP10の主要議題で最大の難関とされるのが遺伝資源の利用と利益を公平に配分するためのルール(議定書)作りだ。
2001(平成13)年の作業部会で議論が本格化。しかし、遺伝資源を化学合成した際にできる物質まで含めるよう主張する途上国と、開発に多大な資金を投入した利益を守りたい先進国との溝は深い。
遺伝資源を利用する典型的例はインフルエンザの治療薬タミフルだ。中国原産の常緑樹トウシキミの実である八角の抽出物質で作られる。マダガスカル原産のニチニチソウという植物では抗ガン剤が作られ、製薬企業は莫大(ばくだい)な利益を上げた。こうした遺伝資源の市場規模は年5千億ドル?8千億ドルにのぼるとされる。途上国には「遺伝資源を奪われた」という思いが強い。
“公平な利益配分”には各国とも合意しているが、途上国、特にアフリカ諸国は利益還元の対象を1993年の条約発効前、国によっては大航海時代(15?17世紀)にまで遡(さかのぼ)ると主張する。先進国は「条約発効前まで遡るなんてあり得ない」という立場で、議論は平行線をたどったままだ。
産業界もこの問題に関心を寄せる。日本経団連は今年3月、「遺伝資源の定義がはっきりしない。内容によっては開発が阻害されたり、経済発展に重大な影響を及ぼしかねない」などとする意見を出した。
日本は強硬な態度のアフリカ諸国の説得が重要だとして、会合前にアフリカ?ガボンで開かれる環境相会合に交渉官を派遣。会合に出席する南川秀樹地球環境審議官は「遺伝資源の利益配分は南北問題で根深い。COP10で議定書がまとまらなければ結局、途上国も利益が得られない。先進国、途上国両方が実を得て会議を成功できるよう働きかけたい」と話す。
22日に米ニューヨークで開かれる国連総会?生物多様性ハイレベル会合には再選された菅直人首相が出席する予定。遺伝資源の利益配分の問題はCOP10閣僚級会合までもつれこむとみられ、議長国日本の手腕が問われる。
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